6月のこと
沼と洞窟と滝とあやめと海岸と実家の猫と牛乳色の霧のこと。書きかけの日記がいくつかあったのでまとめます。とても長い。
6月の下旬に探検に出た。前々から楽しみにしていて、張り切って朝5時に起きたのに忘れ物をして家に戻り、その上乗る電車を間違えて思いっきり待ち合わせに遅刻した。自分のどうしようもなさに落ち込む。今回の探検先は少し遠くの洞窟と滝だった。洞窟は小さな山にあって、小川に沿って坂道を登っていく。入洞の料金を払って、町営のプールのそれのような更衣室に入り、ロッカーに荷物を預けた。ずぶ濡れになっても大丈夫な格好と動きやすいサンダルに着替える。手荷物はジップロックに入れたiPhoneとクリップライトだけ。少し悩んだけれど、洞窟の中というのは年間を通して気温も水温もほとんど変わらないと聞いたので上着を羽織る。一歩足を踏み入れると洞窟の中は外とは打って変わってひんやりとしている。空気が湿っているけれど不快ではなくて、でもちょっとだけ不安になる。途中までは水の気配もそうなくて、岩場をひょいひょい進むことができる。洞窟の奥の方に進むと、備え付けのライトがなくなるので自分の手持ちの灯りで進むことになる。流れる水に足を浸すと、痺れるくらいに冷たい。入洞前の説明によると10〜15分くらいすると足の感覚がなくなってきて痛くなくなるから大丈夫!とのことだったけれど、本当に大丈夫になるのか不安になるくらいビリビリした。
小さな灯りを頼りに、ひと1人がやっと通れるような狭い道を進んでいく。途中カニ歩きで岩と岩の間をくぐり抜けるポイント(足から入ると嵌って抜けられなくなるから必ず頭から入ってと言われていた)や、四つん這いになって手足を水に浸して天井の低いところを抜けるポイントなどがあった。この四つん這いの場所でずぶ濡れになったのだけれど、オオサンショウウオになった気持ちでざぶざぶ歩くのがとても楽しかった。終始前の人のカンテラの灯りがゆらゆら揺れていて、ゼルダの伝説っぽくてワクワクした。前の人は映画のエイリアンみたいだと言う。エイリアン、見たことがないから今度見てみようかな。
いつの間にか、足のビリビリはおさまっていた。洞窟の中には小さな滝や不思議な岩(ピグモンみたいな質感のものや、よくみると白くキラキラ光っているもの)がたくさんあってとても楽しい。この洞窟を最初に見つけた人はもっとドキドキしただろうな。一般に解放されているのは洞窟の入り口のわずかな部分で、その奥にはまだまだ長く深い洞窟が広がっているそう。
奥のエリアでは、絶えず水が流れていた。薄暗い中で小さな滝が飛沫をあげて勢いよく流れ落ちるのがとてもよかった。洞窟の中は水音がよく響く。静かに静かに水を湛える地底湖も美しかったし、足下をさらさら流れる水も透明度が高い。洞窟の中はだいたい狭いのだけれど、ラピュタの洞窟でパンを食べるシーンのようにひらけているところもあった。岩場に腰かけてひと休みしていると、わずかな灯りに照らされながら揺れる水面が美しくて、ずっとこの洞窟にいたいと思う。洞窟の中の写真はブレてしまってうまく撮れなかったけれどそれでもよかった。そういえば、洞窟の中でうっかり頭をぶつけた回数を数えていたのだけれど、20を超えたあたりで面倒になって数えるのをやめた。一緒にいた人は片手で足りるくらいしかぶつけていなかったので、多分わたしは洞窟を歩くのが下手なのだと思う。ものすごく。痺れるくらい冷たい湧水にふくらはぎまで浸かって洞窟の奥を目指すのはとても楽しかった。また行きたいな。
ひんやりとしていた洞窟を出ると、思い出したかのようにもやもやと湿った暑さが襲ってくる。更衣室で乾いた服に着替える。
洞窟探検の後に更衣室でお話しした小学5年生女の子ふたり(親友らしい)とても可愛かったな 洞窟を最後まで探検した証のカードを誇らしげに見せてくれた 新体操をしているらしく軽やかに側転をしてくれた 背比べをしたらその子たちの方が大きかった お姉さんお姉さんって話してくれて嬉しかった
— 水辺 (@aomidorinomizu) 2017年6月24日
何年生?お姉さんは○歳だよって言ったら「えーーっ歳言っていいんですか?」「ママは24歳から数えるのやめたって」「お姉さんもそろそろ数えるのやめよっかな」「うふふ」「うふふ」「お姉さんさっき洞窟で頭ぶつけすぎて15回こえたあたりで数えるのやめたよ」「えーーっ」「うふふ」
— 水辺 (@aomidorinomizu) 2017年6月24日
プールを出た後のそれと似た倦怠感。人気のない坂道を歩いていると、紫陽花は咲いていないしセミだって土の中に潜ったままなのに、なんだかもう夏の終わりみたいだと思った。四季が4頭の犬で、円を描くように回っているとすると、春の尻尾か夏の鼻の先というところだったと思う。アイスが食べたくて仕方なかったけれど近くには釣り堀しかなかったので諦めた。
近くにあるもう1つの洞窟にも行った。こちらは子ども連れでも入りやすい鍾乳洞だから、駐車場がかなり混んでいた。小学生くらいの時に一度来たことがあったと思う。先ほどの鍾乳洞とは趣が異なって、広く高い洞内の壁や天井沿いに大きな鍾乳石がたくさんある。鍾乳石でできたカーテンや滝や柱は遠くから見てもわかるくらいなめらかで、なんだか西洋の宗教画のようだし、地面からタケノコのように伸びる無数のトゲトゲはお寺にある地獄絵図の一面のようだった。一番大きなものはパイプオルガンがものすごい進化を遂げたみたいな感じだった。例えがわかりづらいと思うので写真を見てください。
近くにあったつるつるでぺたぺたの石を撫でたらひんやりしていた。洞窟の中で植物を見かけると、宝物を見つけたように嬉しくなる。苔や小さな芽。だいたいが蛍光灯の近くにひっそりと生えている。洞窟の中で何か生きているものを見つけると、それがコウモリでも苔でも安心する。
それから、憧れの大きな滝を見に行った。周囲のお店が軒並み滝にちなんだ名前をつけていて面白い。大きな滝は水量もすごくて、ただただ圧倒された。この激しく大きな滝を辿ると、穏やかに流れる川があるのだと思うとなんだか不思議な気持ちになる。上流から滝を見下ろしてみたい。かなり落差がある滝だから、上から見たら川が急に切り取られたように見えるんじゃないかと思う。気になって仕方がない。
下から正面からそれから横から滝を見る。見る場所によってかなり印象の変わる滝で面白い。よく晴れた日だったから滝の近くに小さな虹がかかっていて、見つけた瞬間嬉しくなった。仕事中に虹を見つけることがあるのだけれど、写真は撮れないし仕事中は大体ひとりだから誰かに話すこともできない。久しぶりに、人に「あそこ見てください 虹ですよ」と言えた。ちょっと嬉しい。
冬は滝が凍ると聞いたので、それもとても気になる。この滝が凍ったら、きっと大きな大きないきものが眠っているように見えるのだろうな。さんずいにりゅうで滝と瀧。冬の眠る滝を見に来られたらいいな。地ビールを飲んだり甘いおやつを食べたりしてひと休みする。茶屋から見える山の緑が美しかった。あとなぜかくまモンのかかしが居た。茶屋のおじさんの豚柄のTシャツに「おりがみ」と書いてあって謎しかなかった。
それからまた別の滝を見に行った。この滝は小さな2本の滝なのだけれど、側まで近づいてなんと触ることもできる。前に写真を見せて貰ってからずっと行きたいと思っていたところなので結構な感動で、おかしな行動に出そうになった。雨の翌日だったからか水の勢いがすごくて、あたり一帯が滝の飛沫できらきらしている。空から水が降ってくるような感覚だった。まとまって勢いよく落ちてくるので雨とはまた違って楽しい。午前中だとちょうど日が差してキラキラするらしい。足下には小さくすばしこい魚が泳いでいた。このあたりは鮎が有名と聞くけれど、あれはなんの魚だったのだろう。サンダルを履いていたのでひんやりとした水に足を浸してしばらく遊んだ。あまりにも良い滝だったので、時間があったらずっとあそこで遊んでいられたと思う。うまく日記を書けないんですけれど、本当に本当にとてもよいところで、絶対にまた行きたい。美しい滝だった。
別の日、美しい沼に行った。本当はその日は滝を見にに行こうと思っていたのだけれど、非番で乗ることのできる電車の時間とバスの時間が合わなかったので次回に持ち越し。さてどうしようかなと悩んでいたら、退勤が同じくらいの時間だった先輩にお昼ご飯を食べようと誘われたので、ピザをつまんでゆっくり話した。先輩はわたしの今の仕事の師匠で、とても優秀な人。飄々としていて人を煙に巻きまくるので妖怪か狐のようだと言われているけれど、弟子のわたしには見習い時代から今に至るまで本当にとてもよくしてくれている。先輩の一押しの海と島について話を聞いて、また行きたいところが増えた。いろんな人と話していると、みんなそれぞれに、心の中にそっと広がる水辺があると分かる。お気に入りの水辺。
猛暑になったら公園で水風船を思いっきり投げ合おうと誘われた。ちょっと気になる。先輩と一緒にダラダラ水着や可愛い浮き輪を見て夏への想像を膨らませ、それから別れた。調べてみたらちょうどいい時間の電車があったので、前に教えてもらった沼に行くことにした。本当はピカピカに晴れた日に行こうと延期し続けていたのだけれど、いや何回行ったっていいんだなと思い電車に乗った。思い立ったら吉日。
非番の眠気に耐え切れなかったので、電車で寝て、乗り継ぎの駅の待合室でアイスをを食べ、次の電車でまた寝て、としていたらあっという間に沼の近くの温泉街に着いていた。2時間弱。結構近いし、もっと早くにくればよかったな。山間の温泉街なので坂が多い。レンタカーを借りてダムと沼を見に行こうかと思ったけれど、ペーパードライバーで駐車もろくにできないのに温泉街の細い路地を抜けるのはこわいなと思って諦めた。
沼までの道にはきらきらの木苺がそこかしこに生っていた。誰の山かわからないのでさすがに取って食べるのは諦めたのだけれど、夏だなあいいなあと気分が高まる。
曇りの日だったのでエメラルドグリーンとはいかなかったけれど、緑色の沼は静かでとても綺麗だった。ボート屋さん兼お茶屋さんといった感じのお店があったのでボートを借りて沼に繰り出した。ボートに乗るのは10年ぶりくらいだったと思う。お店のおじいさんが熱心にレクチャーしてくれてのだけれど、ひとりで無事帰って来られるかかなり心配だった。ゆっくりゆっくり漕いで沼を散策する。案の定何度か座礁しかけた。
お店のおじいさんはこちらが心配らしくて、犬の散歩がてら沼の外周を歩いて様子を見ていてくれた。なんとか大丈夫ですと手を振る。あんまり大丈夫じゃないけど。ボートで沼を散策したあとは歩いて外周を回る。浅瀬が薄い緑色でキラキラしていてとてもよかった。蔵王の御釜を見に行った時にあのエメラルドグリーンの水に近づけたらなと思っていたので、美しい沼をボートで散策することができて本当に嬉しかった。強い酸性でほとんどの生き物が棲めないという沼は静かでちょっと寂しくて美しかった。光の差すよく晴れた日に来るとまた違うのかもしれない。
温泉街の公衆浴場で、汗と疲れを流す。タオルを持っていてよかった。樋から滝のようにお湯が落ちてくるお風呂で、なんだか楽しかった。色々なところから聞こえてくるおばあちゃん達の会話が懐かしい響きで落ち着いた。実家からは遠いけれど、南東北の方言はやっぱり馴染み深いと思う。身体の力が抜けたのか、帰りの電車もあっという間に寝てしまった。温泉があって美しい沼があって山も川もダムもある。職場さえ近ければ、あの辺りに引っ越したい。
別の日。あやめを見に行った。
非番で午前に仕事が終わる日だったのだけれど、舞い込んできた残業で昼まで仕事をしていた。職場の先輩たちと海老ワンタン麺を食べて別れたのだけれど、なんとなくそのまま家に帰る気にもなれず、いつもはあまり乗らない方面の電車に乗ることにした。ホームで電車を待っていたら、異動前の職場でお世話になっていた人たちに声をかけられた。電車が来るまでの間、少しだけ話をする。入社は同期だけれど中途採用だからずっと歳上。春の午後のように穏やかに優しく話すひとたちで、そういうところが大好きで憧れていたなと思い出す。今の職場も好きだけれど、前の職場は就職したてで右も左もわからなくて、しかもかなり要領の悪いわたしを育て上げてくれたところだったから、そこで出会った人たちのことはやっぱりいっそう愛おしく懐かしく思う。残業をしてこの時間にならなければ、それからあやめを見に行こうと思わなければこのタイミングで2人に会うことはなかったと思う。その日の仕事の疲れがすっと消えたような気がした。2人は電車が駅を離れるまで手を振っていてくれた。
涼しい電車に揺られて、長くあやめのお祭りで町おこしをしているその町に向かう。初めて降りる駅だったので、降りてから公園までの道で少し迷うかと思ったけれど、同じようにあやめを見に行く人たちがたくさんいたので案外スムーズに着くことができた。
「あの花がねえてっぺんまで咲くと梅雨が明けるのよ」
日傘を差したきれいなおばあちゃんたちが道すがら話していたのは立葵のことだろうか。少し気になった。
あやめのお花はドレスみたいにひらひらふわふわしているけれど、こっそり触ってみたら花弁は案外しっかりしていた。平日の夕方だからか公園は閑散としていて、ゆっくり回ることができた。公園の真ん中には、丘があって、小島を囲む海のようにたくさんのあやめが咲いている。あっちに行ってもこっちに行ってもあやめだらけでとても楽しかった。あやめ、どれもとっても可憐なんだけど名前がそれぞれ浮寝鳥 聖人 四海波 眠り獅子 拳比べ 深海の色みたいな感じでかっこよかった。
帰りに川を見たくて寄り道をしたら草むらに入り込んでしまって足が痒くなった。スカートが大好きだけど夏の探検には向かない。
霧の深い日があった。牛乳色の霧に包まれていると、山も川も田んぼも建物も人も車も全部まぼろしみたいに見える。湿った空気がひんやりしていて気持ちがいい。遠くのものも近くのものもだんだん見えなくなって神秘的だった。風が吹いて、海や川の方から細かい水の粒が霧がふわっと流れてくる。気象現象の中でもかなり好きかもしれない。霧。
[浄土のような海]
また別の日、実家に帰った。突然帰ったため家族はみんな仕事で、わたしはずっと4匹の猫と遊んで過ごした。一番末っ子のオスの黒猫はわたしがどこに行ってもおっかなびっくり付いて来るので、一緒に散歩をしたり夕陽を見たりした。猫たちと一緒になって地面に寝っ転がっていると本当に穏やかな気持ちになる。休みの日に山の中で猫たちと過ごしていると、わたしは結局これがしたいんだよなと思う。いつか一軒家で猫たちと暮らせたらいい。庭のバラがたくさん咲いていたのでいくつか貰って帰った。
変な体勢でおそるおそる水を見てるねこを見てる pic.twitter.com/vwqWbNp1od
— 水辺 (@aomidorinomizu) 2017年6月20日
[リベンジザ木苺 実家の おいしかった]
おととい行った海と木彫りの鳥のことはまた今度書きます。